物由来の色々な大きさの有機物の密度やその表面状態(くっつきやすさ)と、これらがぶつかりあう頻度を決めている流れなどの海水の物理的擾乱等が主な因子であろう。これらの要因の1つが欠けても小さい粒子が大きくなっていくことはできない。例えばもし海水中の粒一子がお互いに反発するような表面状態であるならば、物理的な衝突によって粒子が大きくなるのは難しいわけである。珪藻あるいは珪藻由来の有機物がマリンスノーの原料としてよく用いられるのは、この種実頁は凹凸のあるものが多いことと、表面に付着性の強い多糖類を持っている場合が多いからである。珪属や藍藻・細菌などが細胞外に分泌する粘着性多糖類は、色々な大きさの有機物粒子がお互いに衝突してマリンスノーなどのに大凝集有機物を作っていく上で重要な役割を果たしている。これらの粒子の表面の多糖類が“とりもち”のように海水中の微小な有機物粒子をからめとって大きくなっていくと考えられるからである。事実、培養した珪藻を使ったマリンスノーの生成実験で、海水中に1ミクロン以下の蛍光ビーズを混ぜてやると、そのほとんどがマリンスノーに取り込まれていくことが報告されている。さらに直径が1ミクロン以下の“サブミクロン粒下”も、その成因はマリンスノーと同様に小さい有機物粒一子が物理的に凝集して出来たものと考えられる。この凝集力は弱いので海水を短時間弱い超音彼処理をしてやるだけで“サブミクロン粒子”は壊れてしまうのであるが、ただし実際の海の中ではこのような強さの物理的力が働くことはほとんどない。
このように海洋中では、雪の小さい結晶が付き合って大きな雪の塊になるように、大きさが数十ナノメーターにも満たない有機コロイド粒一戸が物理的な衝突・凝集によって段々人きくなり、最後にはマリンスノーのような肉眼で見える塊まで成長するプロセスが存在しているようである。もちろん実際にはマリンスノーの全部が数十ナノメーターの微細有機物粒子からなっているわけではなく、その一部に微細有機物粒子から由来したものが混ざっているのであろう。ところでこの小さい有機物粒子が生物の助けを借りずにお互いに凝集して一大きくなり、最後はマリンスノーのようなに大粒手となって深海底に沈降しているという考え方は、古くから海洋化字者が夢みていたものであった。
一方私のような生物海洋学の研究折は、光合成生物によって作られた生物山来の有機物が大きくなるのも小さくなるのも、すべてその周りの生物の作用次第であると考えがちである。小さくする方については、海水中に数多くいるバクテリアが活発に有機物粒子を加水分解して小さくし、これらを餌にして増殖しているし、さらに海水中にバクテリアの10倍も存在するウイルスは宿主のバクテリアや微細藻類を粉々に破壊して増えていく。また珪藻などの藻類が動物プランクトンによって食われるとき、細胞が壊れて細胞内の微小な有機物の顆粒が海水中に放出されることも知られている。一方、海洋の食物連鎖の基本は、ある生き物はそのほぼ1桁大きな生き物に食われいくプロセスであるとされており、生物の場合は食われることによって人型の粒子になっていくわけである。さらに人型の生物は大型の糞を排泄物として体外に放出し、これも有機物粒一戸の大型化に重要である。このような糞粒による有機物粒子の再構成すなわち沈降粒子化は、マリンスノーとならんで表層からの有機物の深海への輸送の重要な担い手であることが古くから知られていた。このように生物の代謝は有機物の形を様々に変えるのに極めて重要であることは明らかであるが、物理的な凝集プロセスも同時に海洋では.起こっており、非常に微細なナノメーター位しかない有機物粒子からマリンスノーまで、物理的な凝集と生物的な分解の2つの作用を受けながら、そのサイズを変えていると最近では考え
図−4 海洋における溶存・懸濁・沈降有機物の相互作用と生物代謝等との関係の模式
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